家をとじる日
実家にはもう何年も帰っていない。最初は大学進学のためという不可抗力で家を出て、その後、家を出た自分の方がこころの形がまるく、素直にいられると気付いてしまったので、だんだんと足が遠のいた。親不孝と言われるかもしれない。なんらか親孝行したいという気持ちはある。もう年老いた祖父母のことを思うと、本当は会いに行きたい。一方で、地元に帰るたび、"こども"の姿で振る舞わないといけないことが、ずっと苦しい。 ハチクロを読み直した。学生の頃に読んだ以来で、社会人の目で見たらなにか変わるかと思ったけれど、刺さるのは同じシーンばかりだった。当時何度も繰り返し読んだので、どこを読んでもすべて知っていた。わたしはこのマンガを読んで横浜の観覧車に憧れたし、寝台特急に乗りたかったし、フェリーで北海道へ渡ることに惹かれていた。 リカさんと真山が北海道へ行ってリカさんの実家の跡を見たとき、わたしもいつか自分の実家を手放すときが来るのかなと思いを馳せた。ひとりっ子なのでわたしが実家に戻らなければ、選択肢としては取り壊すことになるのだろう。リカさんに帰る場所なんてなくていいと言ってくれた原田さんの言葉はどれほど心強かったのだろうか。そんな原田さんがいなくなって、リカさんは帰る場所を自分で持ち続けなければいけなくて、じゃあなにを拠り所に生き続けたらいいのだろうか。実家を取り壊して更地になると思っただけで、わたしは耐えられそうになかった。これを決断してでも生き続けないといけない未来がきっとくる。そういう重みを抱えて人間が生きているのだと思うとくらくらする。 いつかの未来を憂うたび、今を抱き寄せることしかできない。これが正しかったと思えるために。 (ハチクロは淡い黄色のイメージがある。なんでだろう。)